東京地方裁判所 昭和42年(ワ)1154号 判決
原告
久保田鉄夫
被告
小川元
第一 主文
一、被告は原告に対し金二二九、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告その余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は八分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四、この判決一項は仮に執行することができる。
第二 本訴請求
「被告は原告に対し、金二、二一一、六〇〇円およびこれに対する昭和四二年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言、
(自動車事故損害金ならびに訴状送達後の遅延損害金請求
第三争いない事実
一、本件交通事故発生
とき 昭和四一年一〇月六日午後七時二五分
ところ 都内北区東十条二丁目五番一二号先五差路
事故車 普通自動車、練、五、そ、三八〇四号
運転者 被告
受損車 原告所有の原動機付自転車北区あ七八八七号
受傷者 右運転中の原告
態様 右折する被告車と対向直進の原告車とが右交差点内で接触し、ために原告は受傷し、原告車は破損した。
二、責任原因について
被告はその不動産保険代理業のため、本件事故車を運行の用に供しているものである。
三、損害の填補
本件事故による強制保険金として、原告は被害者請求により金五〇万円を受領した。
第四争点
一、原告の主張
(一) 責任原因
本件事故は明かに、前側方注視義務を怠つた被告の過失によるもので、被告は運行供用者ならびに不法行為者として、原告に生じた人損、物損につきそれぞれ損害賠償を負わねばならない。
(二) 損害の発生
1 人身損害
(1) 傷害の内容
右股関節部完全脱臼、右腸骨々折、頭部ならびに右下腿打撲
(2) 損害の数額
イ 治療費 二六一、四〇〇円
強制保険金により填補した二六万円の治療費のほか、本訴提起まで金一四、〇〇〇円を支出している。
ロ 逸失利益
(イ) 過去の休業損 二四〇、〇〇〇円
原告は消火器、消防器具などを販売する関東消防機械に勤務していたが、事故発生前三ケ月間の平均月給与額は金六万円であつたところ、事故以来本訴提起(四二年二月九日)まで四ケ月間全く就業が不可能となり、給与を受けることができなくなり合計金二四万円の損失となつた。
(ロ) 将来の逸失利益 一、一三四、六〇〇円
原告は本件事故受傷により車に乗れなくなつたため、労働能力の減少をきたし、今後少くとも収入の二〇%の減収となり、本訴提起時四二才、で五五歳までの就労可能年数は一三年であるからその間毎月一二、〇〇〇円あての損害総額の現価を年五分の割合によるホフマン式計算により算出すると右の金額となる。
ハ 慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円
2 物件損害 六三、〇〇〇円
本件事故により原告の車は全く使用できないほどに破損したが、その価額は六三、〇〇〇円で右同額の損害を蒙つた。
二、被告の主張
(一) 被告の無責
本件事故は左のような原告の過失に基き発生したもので、被告に運転上の注意義務に欠けることなく、車に構造上の欠陥、機能の障害はなかつたから、被告が責を負うべくもない。
すなわち原告は夜間無灯火でしかも、道路中央よりを運転し、被告車が青信号になるのを待つて交差点内に入りその中心附近で右折のため対向車両の通過し終るのを待つて停止していたところに、原告車が進行、被告車の前部に衝突しきつたものである。被告の無過失は、裁判所において本件事故については刑事責任なしと判断され、無罪判決が確定しているところからも明かであろう。
(二) 過失相殺
仮に被告に何らかの責任があるとしても、前述したように原告の過失は重大であるから、本件損害については六〇%以上を過失相殺により減額すべきものである。
第五争点に対する判断
一、責任原因
本件事故について被告につぎのような過失が認められるから、被告は物損については民法七〇九条により、人損についてはもとより自動車損害賠償保障法第三条により、原告に対し賠償の責に任じなければならない。
すなわち被告は自動信号機の設置されている本件交差点において環状七号線方面から十条方面に右折するに際し、四台と認めた対向直進車を先に通過させるため右斜を向いて一旦停車したが王子方面より環状七号線方面に向け青信号に従い直進するクリーム色の軽四輪乗用車が先頭の一台に引き続いて通過した直後、その後方少くとも六、七メートルから後続してきた原告原付車を閑却視したが、その通行帯の目測を誤つたか、必ずしも明かでないが、その接近にかかわらず、その通過をまたずに右折態勢をすすめるべく、急に発進したため自車前部バンパー右側、右前照灯外角附近を、直進中の原告原付車右側エヤークリーナーカバー附近を中心に衝突転倒させ、その衝激接触により原告に右股関節部完全脱臼、右腸骨々折などの傷害を与えたものである。
被告は停止中の被告車に原告車が衝突してきたとして、その過失を否定し、〔証拠略〕中には右主張にそうところがあるけれども、原告の受傷部位が右股関節部完全脱臼、右腸骨々折を中心とし、原告の塔乗していた原付車の破損が、原告の右膝大腿部の後方にかくれ位置する右側エアークリーナー中心部であることからその受傷破損は横からの衝激接触によることが明かであつて、右趣旨は到底とり得ないところである。ちなみに原告車が停止中の被告車右側に直進して自ら当つたものとすれば原付車の前部の損傷乃至少くとも原告の右膝蓋骨、右脛腓骨などの骨折の傷害があつた筈で前記認定の骨折に比べて右下腿は軽度な打撲、擦過傷にとどまつていることはその仮定の成立しないことを示すものといえよう。(〔証拠略〕)
二、原告の損害の発生
原告主張の損害のうち左の限度での損害発生が認められる
(一) 治療費 金二六〇、〇〇〇円
強制保険金により填補した二六万円の医療費をこえる金一四、〇〇〇円の治療費支出については立証がない。
(二) 逸失利益 四ケ月の休業損害 金二四〇、〇〇〇円
原告主張第四の一の(二)の(2)のロの(イ)のとおり認定できる。なお原告本人の供述によると事故後の昭和四二年一一月九日に普通自動車運転免許をとつており、その他労働能力減少の立証はなく、将来にわたる逸失利益は到底認められないところである。(〔証拠略〕)
(三) 慰藉料 金三〇〇、〇〇〇円
前判示の傷害の程度、入院約二ケ月、通院約二ケ月を要した治療経過からして右額が相当である。
(四) 物損、原付自転車破損 金一〇、〇〇〇円
本件原付車は昭和四〇年五、六月頃に約六万円で購入して、事故時までに約一年半毎日業務に使用してきたものであるから事故時の評価額も購入価格の半額を上まわらないものと認められ、衝突箇所から破損使用不能とは俄かに断定できず、修理費乃至評価損からして右限度の損害とするのが相当である。(〔証拠略〕)
そうすると原告の蒙つた損害は右合計八一〇、〇〇〇円となる。
三、過失相殺
ところで原告はその直進してきた道路の車道幅員七・七メートルのところを原動機付自転車として左側通行を看過し夜間道路側から三・八メートルのほぼ道路中心線よりを慢然進行した点、安全運転の十全を期する上での過失が認められるから、その損害請求につき過失相殺すべきであり、前記認定の原告の過失との対比、車種の対比からその損害額につき一〇%を減額すべきである。なお被告は原告の無灯火を主張し被告本人の供述、乙第一〇号証の記載中、これにそう部分があるけれども原告本人の供述、乙第二号証の記載中これを否定するところがあり、俄かに採用できない。(〔証拠略〕)
そうすると、原告の損害のうち被告に請求できる額は右認定額の九〇%、金七二九、〇〇〇円となる。
四、損害の填補
ところで原告は強制保険金として金五〇万円を受領していることは争いない(第三の三)ところであるから、未済損害額はこれを控除した後の金二二九、〇〇〇円となる。
五、結語
そうすると原告の本訴請求は主文の限度で認容すべく、その余は棄却すべきである。
訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行宣言につき同第一九六条を適用した。
(裁判官 舟本信光)